私は基本的に広告を出すのは好まない。出来れば、広告代などと云う余分なものは出したくない。それに、何よりも嫌なのは、広告を出すと、次から次へと種々な広告屋さんから、これこれに広告を出しませんか…と云った電話が掛かってくることだ。
実は、何週間か前に、ある雑誌社から広告出向の依頼があった。私は最初、出す気持ちは全くなかったのだが、そこの社長から高級寿司店に誘われ「付き合いだと思って出してくれ」と頭を下げられ、嫌と云えなくなった。そうしたところ、案の定、別な広告屋さんから電話が掛かってきて、スポーツ新聞で占い広告の特集をするから、一枠載せさせて欲しい、と懇願された。
「一枠、いくらなの?」
「4回掲載で4万円です」
「高いな、やっぱり止めとくよ」
「波木先生は、私のこと忘れていらっしゃるかもしれませんが、私は大昔の先生のこと、鮮明に覚えていますよ。長い付き合いじゃないですか。判りました。特別、先生に関しては、3万円でどうですか?」
「……」
「じゃ、2万6千…円で、どうですか?」
「ずいぶん下げるんだね」
「ほんとに、特別です。」
「じゃぁ、枠の中の一番上にしてくれる?」
「ええ、良いですよ。一番目立つ所を確保します」
「そうだねぇ」
「お願いしますよ」
「う〜ん、しょうがないなぁ」
「ありがとうございます。じゃぁ、担当者から改めて電話を入れさせます」
どうも、丸め込まれたような感じでスッキリとしないが、なぜか、昔のことを出されて受入れてしまった。別に弱味があるわけでもないが、あの頃の日々が蘇ってきたせいだった。
あの頃、私はまだ札幌に移ったばかりで、何とかしてお客さんを増やそうと必死だった。だから、広告営業にも、自分の方から頼み込む形だった。あの頃を思うと、今の生活が妙に堕落しているように思える。お客さんは、適度に来れば良い。自分の時間がなくなるかもしれない広告が出ることを恐れながら、その一方で、どうせ出すなら目立つ形にしたいと、矛盾したことを平気で云っている。あの頃の私は何所へ行ったのだろう。