その不動産屋さんは、案内してくれるとき、盛んに「今度のはオススメ物件ですよ」と、強調した。三件目の物件だった。
車から降りたとき、夜だと云うのに、その円筒形をしたビル・マンションは、なぜか第一番に目に飛び込んできた。判りやすい。地下鉄からの出口の隣でもあった。立地条件としては、これ以上ない。
室内も、内装が真新しくなっているだけに、新築マンションのようだ。何よりも四室すべてが、ベランダに面している部屋―というのが凄い。12階だけに、ベランダからは、札幌の中心部が一望できる。「同じライオンズマンションでも、ここはレベルが最も高いんです。豪華でしょう。私が住みたいくらいです」確かに豪華だ。
「実は、ここは最初13万円だったんですよ。でも、駐車場がないため、なかなか決まらなくて…それで11万に落としたばかりなんです。分譲で四千万以上の物件ですから、絶対お得ですよ」
「エアコンは付いていないんですね」
「北海道のマンションで、エアコン付って、あったかしら…」
「だって全部の部屋がベランダだと、夏場は暑いですよ。エアコンがなきゃ、大変だと思うなぁ。取り付けても良いなら、前向きに考えますけど…」
「じゃ、駄目モトで、訊いてみますね」
確かに、マンション位置は教えやすく、すぐに判る。自宅と職場とを兼ねる私の職業では、来客の方にとって、場所が判りやすいこと、駅から近いことは絶対の条件だった。それに、私好みの高層階であることも条件的に合う。本当は最上階が良いのだが、まぁ、14階建ての12階なら、良しとしよう。11万は高いが、この豪華な造りで、ということを考えれば、むしろ安い。問題は、エアコンが取り付けられるかと、占いの営業許可が下りるかだ。
翌日、案内してくれた不動産屋さんは「費用さえそちらで持つのであれば、エアコンの取り付けはOKだそうです。営業も、そんなに頻繁に来客が来るというのでなければOKです」
「そうですか。それでは前向きに考えようと思います」と、返事はした。だが、私は迷っていた。
第一、私は、どうして引っ越そうとなどしているのだろう。別に、今居る所が、特別問題があるわけでもない。しいて云えばやや狭いが、我慢できないほどでもない。実際に捜して見ると、広い部屋の賃貸物件は少ない。3LDK以上の物件は、分譲リースになってしまうのだ。したがって高くつく。ましてや、私のように、高層階を求めるとなると尚のことである。
条件を満たす物件は貴重だ。ただ、家賃は今より高くなる。電話番号も変わり、これまでのお客さんたちが、そのままの形で続いて来てくれる保障はない。それでなくても、最近は来客数が減っている。大丈夫だろうか。それに、今、引っ越すのは時期的にも厄介だ。雪が降り始めているし、これから準備してだと、年末近くになってしまうかもしれない。
それに、もう一つ気に掛かっていることもある。方位が良くないのだ。九星気学で云う「五黄殺」だ。反面、運気を切り替えるためにも動いた方が良いような気も、どこかではする。
翌日、不動産屋さんから電話があった。
「実は、謝らなければならないことがありまして…」云いにくそうに、その後を継いだ。「実は、11万とお伝えしたのですが、…そうではなく13万と云うことになってしまったのです。」
「どう云うことですか?」
「管理費が2万円分、プラスされることになったのです」
「でも、頂いたパンフレットには、管理費は記入されていませんよ。それに、13万から11万に変わったと、云ったじゃないですか」「そうなのですが…申し訳ありません。私も、おかしいとは思うのですが…そう云ってきたものですから…」
う〜ん、何となく貸し方の心は読めるようである。借り手がないから値を下げた。そうしたら、すぐ、借りたい人が出て来た。しかも、エアコンを自分の費用でも良いから取り付けたい、と申し出ている。多少、値を上げても、借りるだろう。そう踏んでいるのではないだろうか。けれども、それって詐欺のようなものじゃないですか。
たまたま、友人の占い師から電話が掛かってきたので、そのマンションに引っ越すことが良いかどうか、占ってもらった。「先生、絶対引っ越すわよ。しかも、それが良いって出ているし…」「絶対、引っ越すとは決めてないよ」「ううん、絶対引っ越すって、間違いないわ。仕事運も良くなるし…お金の面なんか心配ないわ」
口には出さなかったが、お金のことなんて心配ない、と云われても、収入面には不安がある。大いにある。絶対に住むと云われて、益々迷ってしまった。最初にケチが付いた住居だけに、特に金運に関しては、そこへと行くことでトラブルに巻き込まれないか、心配なのだ。もしも私に守護霊が付いていて、危険を察知してくれているなら、多分、何らかの方法で私をそこへと行かせないだろう。そして、偶然が重なり、私をもっとも望ましい住居へと導いてくれるに違いない。