「しまった!」
気がついたのが遅かった。後の祭りである。
「診察書を提出してから、取りに行きゃぁよかった。」
気になっていた体のできものがもしや帯状疱疹と言い始めた家内の言葉に、男は慌てて娘を病院に連れて行った。しかし、娘は診察券と保険証という言葉を聞き落して、保険証を忘れてしまった。
車で急いで取りに戻って再び病院に来たが、待っていなさいと言いつけたところに娘はいなかった。
あせって病棟のどこを探しても見当たらないのである。
『そうだよな・・・皮膚科の受け付けをして、いつものところの隣なんていって別の所を誘導してしまったものな。』
2Fにアレルギー科と小児科が両隣りになっており、皮膚科は1Fなのだ。
家内の発見が遅れたのも、娘はアトピーが出ているものだと勘違いしていたからだ。
娘は今年で小学校を卒業する。そろそろ大人になるので、と思い、自分で判断できるよう社会勉強のつもりで突き放したのが悪かった。
もしや万が一のことがあったら・・男は父親として、恐ろしい結末が頭をよぎり、必死になって皮膚科の窓口に駆け込んだ。
「すみません、お手数をおかけしますが、私の娘を探しています。皮膚科の受付を致しましたが、そこでは診察を受けていないか確認できませんでしょうか?」
「ちょっとお待ちください。」
PCを使って調べるが、OSが古くメモリが少ないせいか、なかなか答えを出してくれない。
「ちょっと反応が遅いんですよ、申し訳ありません。」
10分を経過する。
「お名前は?」
「○○です。」
「○○さんですか、受け付けていないですね。ちょっと待ってください。もう終わっているのかしら?」
「ああ、もういいです、もう一度館内を探して別のところに尋ねてみます。ありがとうございました。」
『こっちはもしやのことが・・・と寸分を争っているのに・・・全く・・・。』
そんなことをぶつくさ思いながら、改めて中枢部の事務に行った。
男が皮膚科の受付をしながら、間違って別の場所を誘導してしまったこと、その後保険証を取りに行っている間、行方が分からなくなったことを説明する。
「いやぁ、間違って科を案内しても、病院内のことですから職員が気がつくはずですよ。」
「でも、肝心の皮膚科では診察書が出ていないみたいなんですよ。」
「ちょっとお待ちください。」
が、ここでもPCの反応が悪く、なんともならない。
『困ったものだ。現代人の文明に頼りすぎる弊害と言わざるを得ないな。』
強引にその場から席をはずして、見渡しながら、歩き出し再度2Fに上がって、探す。
「すみません、娘を探しているのですが。」
「ああ、○○ちゃんのお父さんでいらっしゃいますか?お待ちしていました。」
「え、お待ちしていましたって…、ここで待ってくださってたんですか?」
「ええ、お嬢様に尋ねたところ、『帯状疱疹かも・・・』って言われていたんで、皮膚科の受付をなさったようですが、小児科の別室で待機してもらっていたんです。」
「え!!じゃあ娘は小児科を・・・あぁ、そりゃそうですよね、その方が・・・」
そして娘がいると指さされたところは、科の中の隔離室であった。
アトピーでアレルギー科に行ったり、小児科だったり、皮膚科だったり、何がどうなっているのか一瞬わけがわからなくなったが、とにかく娘の居場所が分かったので、男はほっと胸をなでおろした次第である。
『しかしPC依存でしかも内科・外科のみならず、ありとあらゆる専門科医がいる近代医療というのも、困ったものだ。昔のように、もっと人と人とのつながりで生きれる、温かい社会はもう戻らないものなのだろうか…』
「やれやれ・・・」
男はそんなことを考えながら、深いため息と同時にしぶしぶ中枢部の事務室に足をふみだした。