「いつもこの時期になると、どういうわけか、何か新たなものが胎動する…。」
そう呟いて、男は今年一年を振り返った。
そういえば昨年は大きな波が押し寄せて、
今までの会社勤めに見切りをつけ、
新たな事業に取り組んだ結果、
落ち着いて横になることがないほど
自分を追い詰めながら昼夜なく働いた。
そんな矢先に、大量の血を吐いて緊急入院となった。
胃潰瘍である。
一週間の絶食治療という考えもしなかった状態に突如置かれてしまったのである。
窓から外を覗きながら、世間とは隔絶された閉じられた世界に自分を置くことを許された。
ふがいないことであるが抵抗することのできないどうにもならない力があることを思い知らされたわけである。
「自分を取り戻そう。せっかくだから…。」
こうして朝の新聞に隅から隅まで目を通し、聖書に読みふけり、最後まで自分が信じるものは何かを問い直していった時間が過ぎていったのである。
「どこまでもフィクションの世界であったものが、まさか現実の自分の人生に直接訪れるとは思いもよらなかった。」
そう思いながら、自分の運命とは何か、運命とにらみっこしたのである。
男は、その時のことを考えて、懐かしく思う。
自分がどこに向かって生きようとしているのか、
過去の青春時代の失敗を受け入れながら、
今の自分があるということをそのまま受け入れようと
素直な気持ちになれた入院生活であった。
何もなくていい。
“ヨブは立ち上がり、上衣を裂き、髪をそり落し、地に伏して拝し、そして言った、
『わたしは裸で母の胎を出た。
また裸でかしこに帰ろう。
主が与え、主が取られたのだ。
主のみ名はほむべきかな。』
…ヨブ記第一章20節”
男は携帯に残っているあの時の風景写真が目に飛び込んできた。
そうしてふと、ヨブに自分を重ね合わせようとして勇気を得た原点を思い起こしたのである。