初仕事も新宿。
・・・始まりは、そう、新宿。
田舎から出てきたばかりの私にとっては、見るものは皆新鮮だった。
今は・・・当たり前だというのに。
新宿の西口にバスでついた後。
迎えに来てくれた車に乗り込む。
運転しているのは、当時、好きだった人。後部座席に師匠がいた。
連れて行かれたのは雑居ビル。
歌舞伎町に車を回しながら、軽く説明を受ける。
あるビルに「霊」が出るらしい。
お水の業界では結構あることだが、
ちょっとタチが悪い。
賃貸契約を結んだ矢先に、人が体調を崩したり。
3ヶ月契約なのに、1ヶ月で店主がおかしくなってしまったり・・と。
霊感が強い人間は、若い女がいると口をそろえて言うらしい。
それで、オーナーの友人であった私の好きな人「漆黒」に話が回ってきたというわけだった。
雑居ビルの横に車をつけて、
ハザードをつける。
「私はここで待ちましょう」
漆黒にいってらっしゃいとこめかみに口付けされる。
今思えば、女の動かし方を知っている人だったんだろう。
「ん、頑張ってくる」
緊張はしない。
・・・あの頃は、若かったから。
何にも負ける気はしなかった。
「・・・ここ、いる」
雑居ビルの地下。
エレベータで降りる時に感じる・・。
あの独特の嫌な感じ。
ザラリと背中を大きな舌に舐め上げられるような、そんな感覚。
「ええ、いるから呼ばれたんですよ」
ソレがお仕事ですしーと、
私の師匠は当たり前の様に笑いながら、エレベータから出て行く。
穏やかさんで、いつも笑っていて。
飄々としていて、つかみ所がない人。
そんな人だった。
私達はテナントの茶色い扉の前で、
一度だけ、十字をきった。
扉の向う、そのお店はバーだったんだろう。
・・・そのバーカウンターの端っこにいるのは、
狂った様に笑う女性だった。
生きていた頃は、多分綺麗だった。
そんな風な人だった。