「おかえりなさい」
「・・・ああ、ただいま」
お風呂に入って、体温が上がっている首元に腕を絡めた。
肩口に鼻先を埋めた時、いつもの指先が振ってきて。
安堵のため息がこぼれる。
結局、泣かなかった。
泣くよりもやるべきことのほうに意識を向けていたから。
自分の未来見の力を信じたわけではなくて、
・・・あの叫びを信じていた。
魂の声が乗った、叫び。
向けられたその叫びが。
私にとっては何より一番痛かった。
1つの手の打ち間違えが、深く傷つけてしまった。
強くて優しい、・・・儚い人を。
心を傾けてくれるから、「他人」が向けても傷つかない言葉でも、傷つけてしまう。
それは、身内にしてくれた証拠なんだろう。
他人の言葉なら、いくらでも彼は受け流す。
「周りにとって、俺は機能だから。傷ついてやる必要はない」
そう、口にして。
「生まれてこなければよかった」
「お前さえいなければ」
そう、たくさんの人に言われてきた彼は。
大きくなって、その人たちの生活を支えている。
「うちの娘が結婚適齢期でね」
「本当にあなたがいて助かるわ」
かつて、大人たちだったものは老いて。
彼の力にすがらざるを得なくなる。
・・・・かつて自分のいったことすら忘れて。
・・・・。
迷いのないものは強い。
その上、心の痛みも体の痛みもないなら尚更だ。
どこかでそんな言葉を聞いたけど、
本当に、そう思う。
まるで、砂漠のようなその環境は。
何に対しても折れない彼を作ったけれど、
時折、堰を切ったように、悲しい叫びを上げる。
この間のように。
髪の毛に唇が落ちてきたから、そっと顔を上げる。
切なげで、つらそうな表情。
お互いに、変わったのだと思う。
銀朱様は昔はこんな横顔を見なかった。
きっと、見せてしまったら、
私が次の強い人を探しにいってしまうのがわかっていたからだろう。
私も、きっと変わったのだろうと思う。
「私が帰る場所だ」という想いが、私を強くしてくれた。
どこまでいけるのだろう。
不意に腕に引きいれらるように抱きすくめられた時、そう思った。
「俺は、お前を最後としたい」
その言葉だけで十分だと、そう思った。
・・・行けるところまではいこうか。
そのくらい、肩の力を抜いた状態が、
私にはちょうどいいんだろう。
「いってらっしゃい」
「ああ・・いってくる」
この当たり前が、永遠にとはいわないけど。
・・・できるだけ長く、続きますように。