引越し当日。
通勤路を銀朱様と歩いた帰り道。
立ち止まり、見上げるように目を細める。
「どうした?」
頭をわしゃわしゃと撫ぜられて。
また、歩き出す。
まるで、子供のようだなと自分で想った。
途中でお酒を買った。
まだ、ダンボールだらけの家で傾けるために。
「よく、ここまで来たな」
いつもより、優しい声が部屋に響く。
カーテンがないと、音が部屋の中に反響する。
「大変だっただろう?」
そんなことはない。
もう、引越しにも慣れた。
この1年も、この4年も、幸せだった。
それを、ゆっくりと継げた。
「さっき、言いかけたんだがな」
小首をかしげて、その先の言葉を待つ。
彼が感じていたこと。
この先の私の道。
「・・・ずっと、朱華を続けるのか?」
彼はこの5年。
私を近くで見てきた。
多分、お母さんの次に私を知っているだろう。
だから、問い掛けたんだろう。
「お前が、誰かの役に立ってくれるのは、誇らしい。
俺にとって、誉れだ。
だが・・・」
その先は言わなくても分かった。
そう。
このままなら、いつか、「両方」が手詰まりとなる。
それだけじゃなくて。
このペースで仕事をしていけば、過労で倒れるだろう。
両方とも、体力と精神力を著しく消費する職業だから。
残念ながら、私の体はそんなに強くない。
母からも、言われていた。
「お前の体だけが・・心配」
もしかしたら、銀朱様は、母から頼まれていたのかもしれない。
無理になる前に、止めてくれと。
・・・そういう、人。
「・・・緩やかに絞っていこうと思います。
1〜2年かけて」
私の返事に、少しだけ、銀朱様は視線を伏せた。
「自分でも、決めていたんですよ」
がらんとした前の部屋。
引越しが終わって、振り向いた時、決心したのだ。
何人も何人も、この部屋で人生を見させていただいた。
その部屋を後にする時、決めた。
緩やかな終わりを、選ぼうと。
朱華でなくなること。
それは私にとって、とても大きなことだと想う。
緩やかに、1〜2年した後。
かつての「朱華」のように、既存のお客様しか形にしてもいいかもしれない。
まぁ、どういう形にするかは、今はそんなに考えなくてもいい気がする。
今すぐ、辞める訳ではないのだから(笑)
ゆっくりと。残りの時間を楽しみながら。
いつもどおり、私にできる事をしようと想う。
いつもどおり、精一杯。