「一年半ぶりですか」
柔和なしゃべり方。
この余裕を見て、大人になればこうなれると信じてた。
・・あと4年でその年に追いつくけど、
とても・・そうなれそうにない。
「私」が「あたし」だった頃。焦がれた人。
「・・あの時は、ありがとう」
1年半前。私はこの身に御子を宿して。
でも、産んであげることができなかった。
あの日から、忘れたことはない。
一日たりとも。
心も体も傷ついて。私が殺してしまったのかもしれないと嘆いて。
では、元気だったら産めたのか?と問いかけて。
迷って、苦しんで。
私が泣いたら、銀朱様を傷つけてしまう。
朱華でなければ、クライアントさんに迷惑をかけてしまう。
私が私の悲しみに囚われていることは許されない。
そんな夜。決まって化けて出てきてくれた。
傷がかさぶたになった頃。
彼は私の前には現れなくなった。
まるで、役目を終えたかのように。
「いえいえ」
手が伸ばされる。
若かった頃、誉められたくて。
この手が欲しくて、たくさんたくさん努力した。
強くなったらきっと、もっと誉めてくれると想ってた。
でも。生と死の境界は、絶対で。
もう、その手が私に触れることは、ない。
泣きそうな声で、「あたし」は名前を呼んだ。
正確に言うと、泣いていたのかもしれない。
「ねぇ。
たくさんワルイコトをしたあたしが、幸せになっていいのかなぁ。
あたし、ワルイコトたくさんしたし。
綺麗な体じゃないし。
生まれだっていいわけじゃないし。
あたし、普通じゃないし。
・・・・師匠や、貴方や、あの子に。何にもできなくて、あたし・・・」
どこか、意外だった。
洪水のように零れ落ちた言葉は、多分、私の本音で。
私にも押さえ込んでいたものがあることを、知った。
答えを待つ。
見上げたその顔は苦笑していて、でも、優しかった。
「では。貴方は私の幸せを望んでくれていませんでしたか?」
「いつだって・・・望んでたよ・・」
「それが、答えですよ。朱華」
問いかけを。問いかけで返す。
考えさせるために。
それが、彼の話術だった。
それを私は継承している。
その話術でたくさんの人の力になる事ができたのかもしれない。
苦しめてしまった人もいるのかもしれないけど。
「朱華、私の願いを叶えてくれますか?」
あの頃と同じ、その言葉で彼は願う。
優しく、微笑んで。
その願いがなんであるか。
どこかで分かっていたから。
私は、喜んで、と答えた。