鼓動が、聞こえる。
いつもより、体温が高い。
私は、銀朱様に拾われた。
出会った当初は結婚していた。
それでも、彼は私を拾った。
彼が、女神様を失って。
生きることも止め様とした直後に出会った人がいた。
その生きる意欲を与えてくれた女性も、
いきなり音信不通になって。
途方にくれていた時、私を拾った。
私達は。
人生の袋小路で出会った。
結婚をそのまま続けさせてやるのが一番いいのか、そうでないのか。
自分は目の前の存在に、何ができるのか?
彼が見極めているうちに、夫だった人間の不義が分かり、私は家を出た。
初めての一人暮らし。
銀朱様ともまだ、離れ離れで。
不安の中、懸命に立ち上がっていく私を見て。
彼も想ったそうだ。
「俺の全てを、継いでやりたい」
銀朱様がどんな顔をしているのかは、分からない。
未だに私は、目を開けて肌を重ねることはできないから。
だけど、大切に想ってくれているのが、分かった。
「・・・愛している」
そう言われたとき。
どういっていいのか分からなかった。
ありがとうだったのか。
私もなのか。
それとも、別の言葉なのか。
分からなかったから、何も言わずに少しだけ、笑った。
手が、振ってくる。
子供の髪を撫ぜるような優しい手。
この手が本当に、好きだ。
「俺を信じてついてきてくれて、ありがとう」
普段は絶対に聞かない言葉。
何か、言葉を返そうと想ったのだけれど、やはり言葉にならない。
ただ、縋り付いて、泣いた。
「おいおい・・」
困って、戸惑うような声が聞こえたけど。
構わずに、私は泣いた。
この手だけで・・・十分だと、想った。
Line...
人生には、多分、色々なラインがあると想う。
踏み越えてはいけないライン。
乗り越えなければいけないライン。
そのラインの境目が、ギリギリの瞬間なんだろう。
私と出会う人の中にも、そういう人はいると想う。
その時にもし、力になれたらと想う。
あの時の私と同じ人はこの世界にはいないけれど、
同じような心細い人が、この世界にいて、私が力になれるとしたら。
それはとても嬉しいことだから。
たくさんの人にかけてもらった情を、
返すことができるのは、幸せだから。