本当に色々考えた末の言葉だった。
それでも、言っておかねばならないと想った。
避けつづけてきた、私の本心。
私には御子がいた。
1年半ほど前。・・生まれる前に失ってしまったけれど。
子供ができないと言われつづけていた私に、
宿ってくれたのが本当に本当に嬉しかった。
だからこそ、亡くしたそれは今でも傷は埋まらない。
「私は、普通を諦めています」
今、子供を持てば、
職場復帰できると私は思えない。現実だ。
まだ、私は中途半端だからだ。
無力で、足りない。
それでは、誰一人護りきれない。
「今回の人生において、
私に課せられたことはそれではないのでしょう。
私は、家族を支えなければなりません」
銀朱様にも私にも、乗り越えるべきものがある。
カタをつけなければならない問題がある。
その中で普通の家庭を持つことは。
それは私自身できないことだと想った。
流産の半年後。
急性腎炎をわずらった私は、あと1年以上は子供を産むことはできない。
尿毒症のリスクが高まっているから。
だから、まだ、考える時間はあるのだけれど、
覚悟はしておかなければならないと想った。
お母さんにならない覚悟。
「それでも。御子を授かれたこと。
子供を産めない体だと言われつづけていた私が、
一時期でも、お母さんになれたことをうれしくおもいます。
今でも、後悔はしていません。
・・・悲しい結果に終わってしまったけれど、
あの事象が私の原動力になっていることは確かです」
避けてきた話題だ。
私達2人が、触れることが互いにできなかった問題。
だからこそ、どこかで気持ちがずれて。
すれ違ってしまったこともあった。
だから、きちんと話しておきたかった。
私の、進む理由。
今でも。
子供が楽しそうにしていると、自然に目をそらす。
自分とは別世界のことなのだと。
私の傷は埋まらない。埋めることを私が望めない。
傷を背負って生きていくことを、私が望んでいるから。
傷の痛みが、私が私を磨き続ける理由を思い出させてくれる。
「記憶が近いからだけなのかもしれない。
極寒の郡山のあの部屋で凍えた夜より、
ただ、辛さに泣きつづけたあの夜が・・・一生で一番辛かった。
大丈夫だと笑いつづけた朝が、一生で一番、痛かった。
その辛さが、私自身を磨く原動力になっているんです。
あの昼夜を越えられたなら、今抱えていることも、今立ち向かうことも些細だ。
そう想っているのです」
私のその言葉を黙って全部聞いた後、
銀朱様は真っ直ぐな目で私を見た。
「1人で全部決めるなよ。・・・わからないさ。
この先の形は、俺達がやるべきことをやりながら決めていけばいい。
今、そんなことを覚悟して。決めなくても、良いんだ。
お前を拾ったその日から、お前を一生連れて行こうと想っている。
その果てに、人数が増えるのも、悪くない」
カタ、つけようぜ。
そういいながら、彼は笑う。
「苦しいし、舵取り難しいけどさ、カタをつけようぜ?
お前のその傷ごと、俺のもんだ」
分かり合うまでに、1年半もかかったけど。
何かがほどけていくような気がした。
「・・・俺はお前を拾えて幸せだよ。
俺はヒトを不幸にしてしまう存在だと想っていたけど。
幸せそうなお前を見て、生きる意味を見出してる。ありがとう」
宵闇の中で、小さくそう言ったその言葉。
十分、その言葉だけで幸せだと・・感じている。
お金じゃこの暖かい気持ちは、買えないから。