夢を見た。
いつもの通勤ルート。
背中から、刺されて倒れる夢。
「貴方は役立たずのままでいいんです!」
振り返った私を、かつて私の愛人だった男が何度も刺した、そんな夢。
でも、夢だと分かっていた。
予知夢のような独特の感覚もない。
これはありえない夢だと、知っていた。
「貴方は・・・年をとっていないもの。
私は変わった。 もう、私、役立たずじゃない!!」
私が叫んで自己主張をするなんて、ないから。
自分自身でも驚いて、目を覚ました。
あの日。
私がまだ、結婚していた頃。
たまたま、夫のPCから発見してしまったチャットログにあったのは。
夫と私の愛人だった男の会話。
「役立たず」「あんなの」
「もういらない」「厄介払いしたい」「死んでしまえばいい」
そんな、単語が散りばめられたログ。
人としての尊厳を踏み躙られた瞬間、
死にたいと想っていた私は、皮肉にも生きることを選んだ。
思い通りにならないために。
生きるために心を止めた私に力を貸してくれて。
全てが終わった後、新しい理由をくれたのが銀朱様だ。
そして、この4年。歩いてきた。
いつか、銀朱様は言った。
「どうして私なの?役立たずなのに」
そう、問いかけた私の頭を何度も撫でて、言った。
「俺にとって、最良の原石だから。
彼らを見返してやろうとは想わんが。
お前達が役立たずと捨てたものは、宝石の原石だった。
俺ならこれだけ、磨いて、輝かせられる。
・・・どうだ、お前達こそ役立たずだろうが。って、俺は言えると想っている」
煤けて、砕けそうな石だった私。
拾われて、大切に大切に磨いてもらった。
それが今、朧げに輝きだしているから、あの夢を見たのだろう。
殺される夢は、決して悪い夢じゃない。
変化と再生を予期させる、吉兆の夢だ。
「お前は不思議だよな。
・・普通の人間なら、それを読むたびに過去に縛られる。
お前はそれを読むたびに、自らを律していく。・・不思議だと想うよ」
未だにそのチャットログを手元に置いている私に、
銀朱様は笑う。
「・・私、執念深いんですよ、蠍座のB型ですし」
自分に負けそうになるたびに、
そのログ等を印字した紙が入っている黒いファイルを取り出し、
それを眺める。
臥薪嘗胆という訳ではないけれど、忘れないために。
自分が今以上に弱かった時のことを。
過去を忘れないで、自らを磨きつづけることが、
私の尊厳を侵した人への反抗であり。
私を拾ってくれた人への感謝であるのだろう。