中国の西方地域、四川省は、揚子江を抱えた巨大な盆地であり、古来「天府の国」と呼ばれた豊かなところである。
この四川に「蜀犬(しょくけん)日ひ吠える」という言葉がある。
盆地で、揚子江の他にも大河のいくつかある四川は、多湿のうえに寒暖の差が激しく、常に霧が発生しているので太陽を見ることができず、たまに太陽が顔をのぞかせると、犬が何者が出現したのかと驚いて吠えるということである。
このような土地柄であるから、おおいに汗をかかないと体がもたず、したがって発汗作用のある辛いものが食される。
日本では、単に「辛い」で表せるが、中国では「辛い」にも種類があり、四川で好まれる辛味は、「辣(中国ではラァという)」と「麻(マァ)」の二つだといわれているが、前者は唐辛子の辛味、後者は山椒などのシビレルような辛味で、この両者を象徴するが「麻婆豆腐」である。
この味付けを、「西辣」と称す。
「東酸」とは、上海や南京、杭州といった中東部(江南と呼ばれる)の味付けである。
「江浙(こうせつ)実れば天下下る」という言葉があるが、これは、米どころである揚子江下流の江蘇省、江浙省が豊作となれば全中国の食がまかなえることをいうが、南京より少々下流にある鎮江は有名な酢の大生産地であり、この酢が江南の味付けに大きな影響を与えたとも考えられるし、この地方は湖が多いので、揚子江や湖でとれる淡水魚の料理には鎮江の酢のほどよい酸味が好まれるのだろう。
次ぎに「南淡」とは、南部の広東省で味付けが一般的にあっさりしていることをさす。
この地方では、海と川から新鮮な食材が豊富にあがり、他の地方のように材料に手をかける必要が無い。だからなるべく素材の持ち味が生きるように味付けをうすくするのである。
最後に「北鹹」であるが、北京などの北方では塩分の多い味付けが好まれる。
「鹹(中国語ではシエンという)」とは「塩からい」という意味で、中国でも日本と同様、寒い地方では味付けが濃いものが好まれる。
北京では、元、明、清の都として栄えたが、その分各地の料理が流入した。
蒙古が近いこともあって北京では昔から羊の肉が多く食べられるし、山東や山西などの調理法も伝わったであろうが、いずれもやはり濃いめの味付けである。
この
「西辣、東酸、南淡、北鹹」が、
「四川料理、上海料理、広東料理、北京料理」の味の特徴になっているのである。
広大な中国大陸ならではである。
このように、東西南北に分類して、地域性、方位性を重要視する文化がある。
風水はそのさいたるものである、
「北玄武、東青龍、西白虎、南朱雀」
がそれである。