奥さんには、ご主人の姿は見えず、声も聞こえずの状態にもかかわらず、まるで会話をしているように滑らかな感情伝達が行われていた。
「幸せだったと言ってくれるのか?こんな俺でも、こんな中途半端な死に方をした俺を許してくれるのか?」
私は同時通訳のようにその言葉を伝えた。
この場合には、出来るだけ間を開けずに伝える事が大切である。
まるで会話をしているようなタイミングで伝えなければ、話が途切れてしまうのである。
「当たり前じゃない!貴方は自分で死を選んだんでもなければ、私たちを残して家出をしたりした訳でもないのよ?望まない死に迎えられてしまっただけじゃない・・・貴方は今も私たちを思って、ここにこうしていてくれたじゃない!これで十分よ。」
「これで・・・これで許してもらえるのか?本当に?だらしの無い男だったのに・・・お前たちをもっと楽しませてあげたかった。守ってあげたかった。」
「今度は、貴方は自分の事を考えて良いのよ。もうゆっくり休んで下さい。ねっ!」
奥さんは思い切り無理した微笑を返した。
「うん・・・そうするよ。旅行だけは行ってくれよな?それだけが俺が最後に望む遺言だと思って・・・」
「はい!必ず・・・ハワイに行きますよ。」
「まさか・・・今頃になって遺言を残せるとは思わなかった・・・ありがとう。井口さん」
シェフは、深くお辞儀をして、礼の言葉を述べてきた。
「いえいえ・・・お役に立てて良かったです。」
私もにこやかに伝えた。
「じゃあ・・・井口さん。頼みついでに・・・私の行く道を示してくれませんか?」
成仏の道を歩む気に なってくれたらしい
続く