成仏・・・それは人間が肉体を失い、魂だけの存在になった時、その魂が仏様になる為に天上界に上がる事を言います。
徳丸シェフは、成仏の道を今 爽やかな気持ちで受け入れる気になってくれたのだった。
「井口さん・・・私はさっきまでは、自分の事だけしか考えられなかった。憎い悔しい恨めしい・・・
何で自分だけこんな形で死を迎えなきゃいけないんだと・・・しかし 私がここでこうしている間にも、沢山の死者の魂が、私の横をすり抜けて行くんですよ・・・私の顔を見ながら(あんた何してんだよ、こんな所)って・・・そうか・・・俺はこの世に残っていちゃいけない存在なんだと・・・分かっていた。でも、妻に一言、二人の為に残した物を、せめて伝えたかった、そして喜んでもらう顔を、直接見たかった。それで・・・」
「分かっていますよ・・・そんな事は気にしなくて良い。貴方じゃなくともみんなそう思うものです。」
「井口さんでもそう思いますか?」
「はい!私でも同じように思うでしょう。いや・・・私が貴方のような存在になったら、なまじ力がある為に、手が付けられないかもしれませんね?」
「そうかも知れませんね・・・怖い怖い・・・」
そう言って徳丸シェフは笑った。
初めて見せる見せるすがすがしい笑い顔だった。
「奥さん・・・ご主人が決断されました。送ってあげて良いですか?」
奥さんは小さくうなずいて
「貴方・・・子供は私がちゃんと育てます。だから心配しないで・・・旅行ありがとう。」
「では・・・これから徳丸さんをお送りします。」
続く