耳を覆いたくなるようなサイレンの音・・・
男は耳に手を当てたまま、話を続けた・・・
「空襲警報が鳴った時、俺達は庭にいた・・・
それはあっという間だった。近所に一斉に火が点きはじめた・・・激しい爆弾の炸裂音と共に。
「二人とも逃げるんだ!」
俺はとっさに叫んでいた。
「逃げるって!どこに逃げたら良いの?」
俺はこの二人を助けたかった・・・俺に飯を食わせてくれていたために、逃げ遅れさせたなんてなってしまったら・・・そんな事は絶対にさせられなかった。
「ちょっと待って・・・」おれは身短に有った水の入った瓶から、水を汲み取り大急ぎで二人にかけた
・・・・
「びしょびしょだけど少し我慢してください!熱気で直ぐに乾いてしまうかもしれませんが、少しは火からも守れると思いますから!」
そう叫んだ時だった・・・庭の一部に焼夷弾が炸裂した。
激しい爆風と熱の照射、耐え難いものだった。
「次の一発の爆弾が、運悪くご主人の近くに落ちてきたんだ・・・ご主人はあっという間に火達磨になり、俺はあわてて水を取りに部屋に入った・・・
お嬢さんが無事な事が唯一の幸運だった。」
台所の水瓶に水を取りに言っている間に、不運にも3発目の焼夷弾が、家と庭の間に落ちてきた。
「お嬢さん!この水瓶を転がします・・・火の中を転がしても何とか無事でしょう!せめてお父さんを助けてあげて下さい!!」
そういって火事場のくそ力を振り絞って、重たい瓶を動かし転がした。
その水を頭から掛けたご主人は、大変なやけどながら、命は助かったようだ・・・
でも・・・俺の方は、唯一の水を外に転がしてしまったから・・・終わりだった・・・
「貴方はどうするの!早く出てきて!!」
炎の向こうから、お父さんを肩で支えながらお嬢さんが、半狂乱のように叫んできた。
「俺は・・・良いです。死ぬ前に思いっきり飯が食えたし・・・あの世で空腹にならずにすみます。」
「馬鹿なことを言わないで!生きていればまた食べられるのよ!!」
「この時代じゃ難しいですよ・・・お嬢さん」
「せめて!せめて私達の命の恩人の貴方の名前を教えて!!」
「俺の名前・・・俺の名前は 三上雄三と言います。」
「生まれはどこ?」
「お嬢さん早く逃げて下さい!焼け死にますよ!!」
「いいから教えて!そうしたら逃げますから」
「江東橋・・・江東区です・・・亀○です」
「三上さん・・・分かりました。本当に貴方の事は忘れません・・・それじゃ!」
お嬢さんはお父さんを引きずるように遠ざかった。
「すげえ・・・あついじゃねえか・・・くそっ」
続く