「さて・・・見えない目黒さん(旧姓・こう呼ばせてもらっています)に三上さんを感じさせる・・・そして見えるようにしてみる・・・結構大変だな」
井口は腕組みをしながら考えた。
「井口さん・・・俺は満足だよ・・・こうしてお嬢さんが無事に戦争を切り抜けて、生きていてくれた事が確認できた上に、こうやって会わせてもらっただけで十分だよ」
三上が申し訳なさそうに言ってきた。
「あははは・・・これは私の決めた事だから、三上さんは遠慮する事はない!・・・大丈夫さ」
井口は三上のいると言う位置に向かって、笑いながらそう言った。
隣にいた目黒貴子さんも、井口が話しかける方を見て、にっこり微笑んだ。
「三上さん・・・私も会いたい・・・です。」
「霊と人間の・・・ご対面を、意識的に行う方法・・・試した事はないが、この方法なら・・・」
井口はそう言うと、壁際の鏡を取ってきた。
テーブルに置けるようなサイズのスタンドタイプの鏡だ。
「宮部さん・・・この鏡を借りるよ。」
「はい!何でも使って下さい。」
「ありがとう・・・それじゃ、目黒さん・・・この鏡に貴方の右手をべったり付けてみて下さい。」
「べったり・・・ですか?」
「そう・・・手そのものを写すようなつもりで・・・」
「はい・・・こうかしら。」
目黒貴子は、そう言って右手を強めにくっつけた。
「そう・・・それでは今度はこの鏡のこの目黒さんの手形に・・・三上さん、貴方の手を重ねて下さい。」
「分かった・・・こうか?」
「そう・・・それでいいです。」
井口は見た目は目黒貴子の手形のみ写った鏡を自分の目の前に持ってきて、フローリングの床に座った。」
「恭空無光 真奇力存・・・・」
呪文のような物を唱え始めた・・・
「さあ・・・見ていてください。」そう言って井口は、目黒さんと三上さんのちょうど真ん中になる場所に、その鏡を置いた。
二人とも目を細めて・・・この鏡こしに少し上を見て下さい。
そう言われて、いつしか4人の若者も、自然と目を細めていたのは、多少笑えた。
「井口さん・・・なんか・・・ボーっと見えます・・・何かしら。私は今までこういう霊なんかは信じていなかったタイプでしたのに・・・あっ!」
目黒さんは最後の方は叫んでいた。
「見える!あの時のままの・・・あの人に・・・」
「お嬢さん・・・良くご無事で・・・幸せになられたんですね?良かった・・・・」
「三上さん・・・あなたはこの場所を、ずっと見張り続けてくれていたんですってね?ありがとう・・・ごめんなさい・・・」
「何にも知らないで、ボーっとここにいたのは自分です。貴方は謝る必要はありませんよ。でも・・・これで安心して消える事が出来ます。俺の終戦が今日やっと終わる・・・・」
「三上さん・・・私は幸せよ・・・孫も出来て・・・今はおばあさんだけど・・・私があの世に行ったら、先に行ってる私の父と二人で、私を出迎えてね?・・・クッ・・・・」
「お嬢さん・・・お父さんの事は任せて下さい!・・・お嬢さん・・・あの時の飯は・・・本当に旨かったです・・・ありがとう。」
「何も心配しないでくださいね?本当にありがとう」
「はい・・・それから井口さん・・・みんな・・・ありがとう・・・あんた事をした俺なのに、こんなに良くしてもらって・・・今が一番幸せだ・・・本当にありがとう。」
「いえ・・・貴方のお陰で、この4人の若者も、成長できたのですから・・・みんな良かったんですよ。」
「そうそう!何か心が・・・・こう、キューッと暖かい感じ・・・これ・・嬉しいかも・・・」
裕子が少しおどけて言った。
「さあ・・・私がこれを出来るのにも時間の制限があります。これ以上は無理ですので・・・三上さん、今 あの世の扉が開かれます。一度のチャンスですので、今度は逃さずに・・・」
「はい・・・それでは・・・お嬢さん・・・みんな・・・ありがとう・・・そしてさようなら・・」
沿い言い残して三上の姿が消えた。
「・・・・・・・・・・」
沈黙する全員の、気持ちを溶かした一言がある。
「これで・・・この部屋・・・超格安の物件になったんじゃない!?ラッキー・・・えへへ」
「そうだな・・・良いことをしたから、三上さんが与えてくれたんだよ・・・結果的に」
しばらくたたずむ、みんなの真ん中で、小さな鏡が輝いていた・・・・・
完