テーブルの上で、カタカタ動き出す一対の靴。
それは人に寄れば「気のせいだよ」で済まされてしまうかも知れないほどの、微妙な動きだったかも知れません。
しかし、その時 そこに居合わせた人たちにとっては、どうしても気のせいでは済まされない、靴の動きだったのです。
「これ・・・この靴・・・踊ってるよ?」
遠藤さんが拍子抜けするような感想を言った。
その状況下では、それしか言えなかったらしいのです。
「井口先生・・・この動きは?幹夫ですか?」
「そうです。幹夫君が皆さんに、靴を触って見せてくれているのです。」
「それで?・・・それで幹夫は喜んでいるのでしょうか?」
「はい・・・ニコニコしていますよ・・・」
「・・・・・・・・・」
遠藤さんもご両親も、声が詰まって何もいえなくなった。
「それでは・・・見ていてください。この靴を幹夫君用にしてから、彼に返してあげますから・・・」
そう言ってテーブルの上のスニーカーに向かって、再び印を結んだ。
「さあ・・・この靴は床に置きます。幹夫君・・・聞こえるか?この靴は君のものだ・・・左右揃えて君に返すよ。」
「幹夫!姉さんよ・・・ごめんね。時間が掛かりすぎだよね?本当にごめんね・・・・クッ!」
「幹夫・・・すまない・・・本当に可愛そうな目にあわせてしまって・・・この家のせいだ・・・いや 父さんのせいだ・・・許してくれ・・・・」
その時だった・・・今度はスニーカーはそのままなのに、フローリングの床を歩いてくる音がはっきりと聞こえた。
時折 キュッと、スニーカーが床をかむ音をさせながら・・・ゆっくりと歩いている音がした。
「歩けたね・・・両足で。幹夫君・・・・これで君はしっかりと両足で歩けるんだよ。」
私の目には、ニコニコしながら、どこかまだぎこちなくスニーカーをはいて歩く幹夫君の姿が見えていた。
続く