河野と言うその男の人が、ルームミラー越しに、私の眼を見ながら説明をはじめた。
その眼は、眼力がある・・・
なかなか普通の人には出せない眼力だろう。
「実はこれらご案内するところは、○○区にあるとある事務所なんですが・・・はっきりと言わない方が良いかなと・・・ご理解ください。」
「私にはそんな事は興味無いし、この車のスモークじゃ、外もほとんど見えないから、どこをどう走っているのかさえ分からないから安心していいです。終わったらちゃんと送り返してくれればそれで良い」
「それはお約束します。いろいろと体裁があるもので・・・申し訳ない。今回見ていただきたいのは、俺らの親父さんの娘さんで、高校2年生の方なんですが・・・先々週の月曜日くらいまでは全く普通だったらしいのですが、その翌日の火曜日に、雨に濡れて帰られたそうなんです。それもいつもより遅く、19時を回った頃に」
「いつもより遅くって、いつもは何時ころ帰るんですか?」
「はい・・・大概 18時前には家に居るそうなんです。クラブっちゅうものにも入っている訳ではないらしく・・・だいたい同じ時間には帰宅していたらしいんです」
「でもその日を境にオカシクナッテきた・・・と言う訳なんですか・・・」
「夕食を奥様や弟さんと食べ終わって、お風呂の準備ができたと、奥さまが部屋を覗いたら・・・背中を向けたまま返事をせず、{ケコ・ケコ}としゃっくりのようなものを繰り返しているので、心配になり奥さまが肩に手を当てたら、なんとお嬢さんは鰺を一匹のまま口に咥えていたそうなんです。口の周りを血だらけにして・・」
ルームミラーの中の河野と言う男の眼が、この時にはじめて逸らされた。この商売をしている河野さんたちにとっても、相当おぞましかったんだろう・・・思いだすのも嫌だと言う感じだ。
「それだけですか?魚だけで貴方達はそんなに驚かないはずだ・・・」
「ええ・・・奥さまの悲鳴で、俺やこの武田が部屋に駆け付けたんです。そしたら・・・お嬢さんは魚を咥えたまま・・・なんと160cmほどの高さの箪笥の上に、四つん這いのまま飛び乗ったんです。まるでアニメか特撮を見ているようでした。」
「でもそれだけではきつね・・・に結びつけないはずですね・・・そこで阿黒さんに連絡をしたと言う事ですか?」
「いえ・・・その前に知り合いの医者に連絡したんですよ・・・そしたらその医者が霊の専門家の先生と言う方を連れてきたんです。」
「その人でどうだったんですか?」
「医者は腕を噛まれ、振りたくられ、壁に激突して腕を骨折してしまい、その霊の先生が何やら気功のようなものをぶつけたららしいのですが・・・体当たりして吹っ飛ばされてしまいました。」
「で・・・その霊能者がきつねと?」
「はい・・・あの腕力は動物の憑依だと・・・はじめは魚を咥えていたので猫かなと・・・あっ!すみません・・・こんな安易な事を考えてしまいまして」
「確かに猫ですね・・・私もそう思ってしまうかも・・・・」そう言って私は少し笑った。
「それからが事務所の中は大捕り物でした・・・若いのが3人がかりでも飛ばされる始末で・・・私でさえこの有様です・・・」
そう言って河野さんは腕をめくりクッキリと歯形が残る傷を見せた。
「完全なる動物憑依か・・・それもそこまでの力が出せるとなると・・・かなり深いな・・・・」
「はい・・・これはやばいと思い、阿黒さんに連絡を取りました。」
続く