「でも・・・井口さん」
阿黒さんが確認するように聞いてきた。
「あの孤地(コチ)と言うきつねが言っていたが、残りの高校生・・・神社に連れて行き、罰に掃除させる・・・と言っていただろう?それ以上はせんのではないか?それのもうこの時間だ・・・簡単に家を出る事は難しい時刻だし、この家のように子供の変化に家族も気がつくと思うから、よけいに家は出れないのじゃないかと・・・そう思うんだが・・・井口さんは?」
「孤地か・・・」
私は自分の右腕を抑えた。
稲荷狐の攻撃で、木枠の刺さった腕の傷が疼いた。
今は包帯を巻かれているが・・・
「私も掃除ならば問題なしと思って、帰れると考えていたのですが・・・しかしここの状況が分かれば他の稲荷狐もそれだけで済ませるかとの疑問が湧きました。」
「確かにな・・・井口さんから見て、他の2体の狐は強い霊気を持っていそうかね?尻尾とかは・・・」
「分りません・・・でも孤地が2本尾の狐でしたから、それくらいの霊力は持っているかと思います。」
私はなおも腕をさすりながら答えた。
傷口が更に疼く・・・・・
その時、話をじっと聞いていたこの家の祖父・・・お爺さんが口を挟んで来た。
「あの・・・よろしいですかな?」
「何ですかな?」
顔見知りの阿黒さんが聞いた。
「私には霊やお稲荷様の事はよく分りません。しかし、商売をやっている人にとっては、敷地内に小さい稲荷を祭っている所が沢山あります。この家も・・・仕事はともかく稲荷を祭っています。だから・・・」
「稲荷があるんですか?祠?赤い鳥居?」
「はい!裏庭に・・・神の類ですよね?敵対するのはまずいんじゃないかと。」
確かに・・・稲荷に敵対はしたくは無かった。
「今回は悪いのは娘たちです。ですから待つんじゃなく・・・こちらから先回りして・・・」
「先回りして?」
「これから詫びに言ったらどうかと思っています。全身全霊を掛けて・・・酒と月並みですが油揚げをたんまり持って・・・それと神社に寄付を・・・これは私が用意します。いかがでしょうか?」
この意見は考えてもいなかった・・・
根性が座っているからこその発想だったであろう。
「良い考えだ・・・それは。」
私は頷いた。
「用意できますか?大量の油揚げとお酒は」
「はい!30分あれば・・・」
今から30分だと3時には間に合う。
「お願いします。」
私がそう答えると、大きくうなずき電話を掛けた。
どこへ掛けたかは分からないが、短く命令口調で用意するものを伝えた。
電話を切って
「私も職業柄秘書と言われる者たちが数人います。車の中に待機させてありますから・・・その者たちが大急ぎで走ります」
「親父!俺達も用意させる。」
ここの社長が慌てて答えた。メンツが立たないと言う感じだった。
「そうだな・・・念のために。」
「おし!お前ら・・・今度は油あげだ!
豆腐屋をたたき起せ!」
一気に建物の中が騒がしくなった。
続く