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傷心抱え、求める先は…―湖畔に帰る成雷― 

2007-05-15

まもなく世界は闇に包まれ、暗闇の神の天下となりました。

くじけきった雷神にもはや初めの元気はありません。
必殺ビームを放ってみても、ほとんど線香花火並みの情けなさ。

自分の力を過信して、鍛錬を怠けてきたことのツケが回ってきたのでしょう。
深く重い闇に塗り込められて、あっという間に玉座から振り落とされてしまいました。
さすがの自信家雷神も、この失恋の痛手は深く、鼻っ柱を完全にへし折られてしまったようです。

今や、闇の帝国と化したかつての希望の天地をほうほうの体で逃れた雷神は、あてどもなくさまよいながら、いつしかあの懐かしい湖のほとりにたどり着いていました。

変わり果てた雷神の姿に、故郷湖は驚いてそのわけをたずねました。
雷神は、これまでのいきさつを切々と語り、自分の至らなさに涙を流して悔しがりました。

「まあ、それはそれは、ご苦労なさって・・・。
ここはご立派になられたあなた様には少々手狭とは思いますが、せめてその傷が癒えるまで、ゆっくりなさってくださいまし。」

小さな雷神を育てる役にある湖は、過ぎし日の幼いその姿を回想しながら、懐かしさと愛しさのあまり成長した雷神を慰め、留まることを勧めました。

しかし今の雷神は、弱りきっているとはいえ、その大きさ山を超え、その力は風雨をしのぎます。

言葉に甘えて「それでは」と、湖畔に一足入れば大津波を呼び、手を伸ばせば山壁に当たり土砂崩れを起こします。

湖が膳を献じれば、湖底が見えてしまうほど呑みさらってしまいます。

小さな湖は雷神にとってもはや水溜りにも足らず、のどを潤し満たすにも至らない存在でした。

「雷神様、せっかくここへ帰ってこられたのに、どうやら今となっては私はあなた様を満足にもてなすこともままならず、お役に立てないようです。
それはとりもなおさず、私のような者に甘え頼るほど、あなた様はお弱くはないという証です。
かえって永くここにいるようなことは、あなた様のためにはならないでしょう。これまでの苦難、試練は知らないうちにあなた様をすばらしくお強くしたはずです。
私よりも、その力を悠々と支え、十分にお仕えできる者がおられるでしょう。その者は一刻を待ちません。
せっかくの力を朽ち衰えさせてしまわないうちに、さあ、ここを旅立ってくださいませ。」

本当は、愛しい雷神をいつまでもそばにおいておきたい湖でしたが、それでは共に役をまっとうできず、天に逆らうことになると自ら言い聞かせ、涙ながらに促すのでした。


希望を胸に故郷を後にし、見知らぬ土地で一喜一憂の毎日。

いつものように眠りにつこうと横になったときや街の雑踏の中で、ふと、猛烈なホームシックと共に言い知れない孤独に襲われるなんてことはありませんか?

誰にでも生まれた場所がある。
故郷がある以上、おそらく誰でもが経験しうる現象ではないでしょうか。

私は東京に生まれ育って、人生のほとんどを都内で過ごしてきましたから、郷愁というのはあまり実感したことはなかったんですね。

親元は卒業と同時に離れましたが、生地そのものにはあまり良い思い出もなく、帰りたいと思うことはなかったのです。

ところが、恵方取りのつもりで行ったネパールに、思いがけず長くいることになって、初めて強烈なホームシックというのを経験しました。

ここまで遠く、ここまで文化の違う場所に、年単位でいるとなると、もう、日本そのもの全部が恋しくなるものなんですね。

日本の友達にメールや電話で連絡はできても、簡単には会えない距離。習慣の違いに泣かされて、自分が外国人という孤立感に襲われるときなんかは、本当に不安で一杯になります。

その上、病気で寝込んだときなんかはもう、「ああ、この最果ての地で誰にも知られずに露となって消えるのか…!」と、滝のような涙を流したものです。

しかし、冷静に考えれば、帰ろうと思えば帰れるのだから、それほど深刻なこっちゃないんですが、それは自分の意識とは関係なく、突如として降りかかる流行り病いのようなものなんですね。

私の場合は、周期的に訪れてくるので、しまいには、「あ、またきた」とばかりに、慣れてしまいましたが。

でも、実際に故郷に帰ってみると、そこは、昔のままに迎えてはくれるけど、どこかが違う、何かが違う。

そう感じてしまうのはなぜでしょう。

それはきっと、自分自身が幼いあの頃のままではないという現実までがそこに見えてしまうから。

郷愁とは…疲れた心を一時的にほぐし慰める麻薬のようなもの。

いかに居心地が良くても、いつまでもそこにいてはいけないのです。

故郷は、小さかった自分と成長した自分を確かめに行くところ。

そのアンバランスさを噛み締め、さらに大きく羽ばたくことを決意するために帰る場所。

湖に促された雷神は、はっきりと我に返り、見失いそうになっていた目標をあらためて思い出します。

そして、情けなかった自分を反省し、勇気を奮い立たせて再び雄々しく旅立っていくのでした。

つづきます…

Posted by sansarl 15:23:13 │Comments(0)TrackBack(0)

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