「今日さ、ドアノブ握っただけでフラッシュバックしたんだよ」
真夜中の電話で彼はポツリと呟いた。
彼の会社の社員が死んだ。
年明け無断欠勤していたその社員を心配して、彼は社員の部屋を訪れたらしい。
彼の会社は寮でマンションを持っているから、鍵なら容易に開けられる。
でも
ドアノブを握った瞬間に彼は分かった。
死んでいる・・・。
エアコンは付けっぱなしで、部屋には異臭が立ち込めていた。
見つけた彼は・・・それでも冷静に対応したらしい。
普通なら、腐敗した死体を見たなら腰も抜かすだろう。
「調子が悪いって言っていたんだ。もっと早く気付いてあげられたら」
警察で何度も同じ質問をされて、あなたも疲れているだろうに・・・。
泣いてもいいだろうに・・・。
「奥さんと寄りを戻したくて頑張ってたんだよ、その人。今思うとさ、早く見つけて欲しかったんだよね・・・きっと。苦しかったんだよな。」
電話から彼の感情が痛い位に伝わってくる。
そしてポツリ
「俺・・・あの人に呼ばれたんだよな、きっと。奥さんにも連絡付いたし、帰れたんだもんな・・・」
そうだよ。
君だから任せたんだよ。
他の人じゃダメだったんだよ。
「今日さ・・・車から見る夕日がやたらキレイでさ」
それは・・・消えゆく命を見つけてくれたその社員さんからの最大の感謝のように思えた。
命は儚い。
生きることも、死ぬことも宿命の名の下ではどうしようもない。
だからこそ必死に生きろ。
駆け抜けろ。
思う全てをわがままでもいい、叶えてみろ。
私は故人がそう言っているように思えてならなかった。
とはいえ・・・現場を見てしまった彼の心の傷は簡単に癒えはしないだろう。
でも大丈夫。
一人じゃ乗り越えられないコトも二人ならきっと簡単だ。
その傷
私に預けなさい。
私の出来る限りの力で支える覚悟なら
あなたを選んだ時にとうにしている・・・。
傷の舐め合いも
心の甘えも
添い遂げる覚悟を決めた私達だもの。
してもいいじゃないか・・・。
今の病院を早く辞めて、横浜に行かなくては。
一人で戦うより
どうせなら二人で戦った方がいい。
こんな形で決心が早まるなんて・・・。
これが祝福に満ちた変化と言うなら
謹んで私は受け取ります。