みつ子は賢治と結婚し4人の子供を授かった。
戦時中にひとり、戦後に3人。
衛生兵であった賢治は敗戦後の焼け野原で、衛生兵時につながりをもった人たちと、薬局の卸業を始めることになる。
物のない時代、包帯、消毒液、軟膏、常備薬、飛ぶように売れ20代で一財産を築きあげ子供もすくすく育っていった。
卸し先から集金をし、次の仕事へと向かう環状線のなか賢治が無防備にお金を数えながら移動していた時である。
「タバコを一本もらえる?」
声をかけられた男に胸を刺されお金を奪われ賢治は命を落としていった。
みつ子はその後、女手ひとりで4人の男の子を育てることになる。
賢治が残したお金は充分過ぎるくらいあったのに
「言いようのない寂しさ」から道楽に走り、使い果たすのに時間はかからなかった。
「落ちぶれた女」
この女の前に清正が現れた。心の優しい男だったが妻子もあり、貧しい暮らしをしていた男。
清正という人格を持つ男に、みつ子は自分の人生を賭けるほどの愛情を持つようになる。清正もまたしかり。。。
知り合って6年、清正は家を捨てみつ子と暮らし始た。
「不倫」「極道」「恥しらず」、二人は世間の矢のような非難と、清正の身内からの嫌がらせを受け続け。。。
何年も何年も誰にも認めてはもらえなかった。。。
石を投げつけられるのは茶飯事で、みつ子は正妻に橋の上から突き落とされたこともある。
子供4人は、父ではない男と暮らす「母でなく女」のみつ子を忌み嫌って寄りつかなくなっていった。
孤独の闇と愛を一緒に受け取った人生。
二人の暮らしは40年を過ぎようとしていた。
清正の死。
自宅で亡くなった清正の死に水を取り、正妻の家に訃報をしらせ「二人の時間全て」の幕が閉じた。
何十年も清正と顔をあわせたこともない正妻がしきった葬儀が終わり骨ももらえずお墓に参ることもいまだ許されない。
現在、86歳。ボケがはじまって来た。
「早う、あっちに逝きたいわァ。清さんのとこに行きたいわ。」
「ほんまやなあ。おばあちゃん。早よう、逝けたらええなあ.。」
車椅子を押しながら私は答える。
あんなに嫌っていた祖母の生き様をいまでは凄いと思う。
愛を貫き、女として生きた祖母の葛藤。泣き喚いた日の数は計り知れないだろうけれど、愚痴や泣き言、苦労話は聞いたことがない。
苦しみ無く忍ぶ恋に走るわけではない。。。
苦しみ無く奪ったのではない。。。
苦しみ無く月日が流れたのではない。。。
あなたの彼と過ごした時間、忍ぶ愛の苦しい時間。
一年という時間は長いですか?