一所懸命いう熟語がある。
そのむかし、武士がただ一カ所の領地を死守して生活の頼りとしたという。
一カ所に命を懸けたので、一所懸命になったわけだが、後に一生懸命が一般的に使われるようになった。
また、一生懸命の方が意味合としてもしっくりするし、一所懸命というと違和感を感じる人も多い。
また「必死に生きる」という表現も、懸命と同様に生死に関わる言葉だ。
オリンピック選手を見れば分かるが、普通の生活をやって来て出場できるほど甘い世界ではない。
日々命がけのトレーニングを積み重ねた結果、栄冠を手にすることができるのだ。
フランスのクーベルタン男爵が「オリンピックは、勝つことではなく参加することにこそ意義がある」と発言したことは有名な話だ。
メダルをとるに越したことはないが、努力をしても参加すらできない人たちからすれば、参加できるだけでも意義があるのではないか。
競技をしている選手たちの姿は美しい。そして多くの人々に感動を与える。
それは、彼らが命がけで闘ってきたからではなかろうか。
日本の通算500個目の金メダルを獲ったのは柔道の角田夏実選手で、48キロ級に減量するために過酷なスケジュールをこなしてきたという。
食べたいものも食べられない、死に物狂いで自分との闘いに勝った結果だ。
その人の生き様が、他人に対して勇気や希望や感動といったものを与えることができてこそ、価値ある人生ということになる。
人は自己中心に生きても意味がない。それは愚かな人間の生き方だ。
賢明な人は懸命に生きる道を自ずと選ぶものである。