今日は技術翻訳のことを少し書きます。
いわゆる産業翻訳や技術翻訳と呼ばれるものは、一般の人が翻訳と聞いてすぐに想像する文学翻訳とはまったく性格を異にするもです。
どちらがいいのかとよく訊かれますが、これは向き不向きの問題で、むつかしさは同じくらいでしょう。
技術翻訳は科学的知識が必要ですし、文学翻訳には格調の高い文章が要求されます。
収入的にも文学翻訳は「パリーポッター」のような大ベストセラーでも引き当てない限りは、技術翻訳と良くて同程度、普通はかなり低いようです。
私はお金を稼ぐために技術翻訳の道を選びました(といって大した収入ではありませんが)。
技術翻訳の大変なところは様々な分野に対応しなければならないことです。
たとえば、ニ価金属の無水次亜リン酸塩(分野としては無機化学)に関する論文とか。
誰かこのテーマに詳しい人がいるかな。
少なくとも私には生まれて初めて聞いた言葉でした。
では知らない分野の文書を訳せと言われたらどうすればいいのでしょうか。
断る?
まあ、翻訳をやっていないとわからないかも知れませんが、私は引き受けます。
やるしかありません。
私は今まで、翻訳では料金が合わない場合を除いて、一度も依頼を断ったことがなく、それでクレームを貰ったこともありません。
なぜ知りもしない分野の翻訳を引き受けるかと言うと、これは私がパリで通訳・翻訳事務所を経営していた時の経験から言えるのですが、翻訳会社は依頼を断るような翻訳者を正直で偉いなんて思わないからです。
単にその人間は実力がないと判断し、よほどのことがない限り二度と依頼しません。
大体新人の翻訳者の場合、翻訳会社が依頼するのはなんらかの特別な事情がある時です。
そうでなければ、安心できるベテランに頼むでしょう。
それなのに断ってしまうと、次の特別な事情をずっと待たなければならないことになります。
しかも新人は他にもいますからね。
逆に、この依頼を受けて成功すればそれが実績になり、少なくともウェイティングリストからは出られるかも知れません。
もちろん失敗すれば一貫の終わりです。
言ってみれば賭けなんですが、新人はそこまでしないといつまでたっても浮かび上がれないんですね。
これはなにも翻訳の世界だけのことではないかも知れませんが。
また、専門分野というか得意分野を持つことも重要です。
この分野は彼に頼めば絶対安心だと思ってもらえれば、仕事も増えるし、一つの分野での知識が他の分野でも類推的に利用できることもよくあります。
もっといろいろなことがありますが、今日はこの辺で止めて置きましょう。
翻訳者になりたいという人がいたら、遠慮なく私に相談してください。
いかに割りに合わない仕事かゆっくり説明してあげます(もちろん冗談ですよ)。
では。
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