記憶のメカニズム

この間、あるクライアント(チャーミングでで聡明な女性です)と記憶について話す機会があったのですが、その時に「失われた時を求めて」のことを考えました。

皆さんもこのなかなか魅力的な題名の小説をご存知だと思います。

作者はフランスの作家マルセル・プルーストで、20世紀の小説を変えたといわれるほどの名作です。

しかし、実はこの小説は物凄く長くて、和訳版の文庫本でも10冊もあるのに、事件と言えるようなものはほとんど起きないんです。

その上、プルーストは一つの文章が長いことでも知られていて、大変に読みにくい。

そのためフランスにおいても有名な割には最後まで読まれることのない作品ベスト1とされているくらいです。

それはまあいいとして、この小説の紅茶に浸したひと口のマドレーヌから子供時代の様々な出来事を思い出すエピソードは余りにも有名です。

実は、主人公の記憶の扉を開くのは、マドレーヌの匂いなのですが、こうしたある特定の匂いがそれにまつわる記憶を誘発する現象は、作者にちなんで「プルースト効果(プルースト現象)」と名付けられています。

しかし、匂いでなくとも、なんらかのきっかけで昔のことを思い出すことは誰にでもあるでしょう。

うろ覚えで申し訳ありませんが、昔読んだ本によると、記憶のメカニスムとは鍵と鍵穴のようなものだとのことです。

説明するのが難しいのですが、古い記憶が脳の引き出しに収納されているとすると、その鍵穴に合った鍵が差し込まれた時に、その記憶が甦るんですね。

鍵は匂いでも、手触りでも、音でもいいんです。

何らかの刺激でさえあれば(私はデジャビュ(déjà vu)もこれで説明できると思っていますが長くなるので別の機会に譲ります)。

そして、これは物忘れ防止に利用することができます。

例を上げると、おばさん(若い女性はあまりやらないと思う)が手首に輪ゴムをはめて外出し、その輪ゴムを見ることでやるべきことを思い出すと云ったことです。

心理学用語ではこれをアンカーリング(anchoring)と呼んでいます。

更に、悪い状態に陥った時や思い出したくない記憶が頭から離れない時に、これを解消するために利用できます。

ただし、これは非常に高度かつ複雑なテクニックなのでここで詳細を説明することはできません。

興味がある方は私に直接ご質問ください。

では。