突然ですが、日本人の多くが信じている有名な説に、「日本人は虫の音を左脳で聞く」というのがあります。
今日はこの説を検討してみたいと思います。
「日本人は虫の音を左脳で聞く」から、どんな虫が鳴いているかを聞き分けることができ、情緒を感じるが、右脳で聞く他の民族には雑音のようにしか聞こえないというわけです。
80年代には、こんな脳生理学の研究が、自然をいとおしむ日本文化の科学的分析として一世を風靡し、戦後見失われがちだった民族アイデンティティーの再認識にもつながりました。
しかし、現在、この研究を支持する脳科学者はほとんどいないとのことです。
90年代になると、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)や陽電子放射断層撮影装置(PET)によって、生きた人間の脳の活動を外部から調べることが可能になりました。
心のさまざまな活動を、脳のどの場所が担っているかをほぼリアルタイムの画像で確認できるようになったわけですね。
その結果、「日本人だけが左脳で虫の音を聞いていることを証明した画像実験はない」と脳科学者たちは断言しています。
反対に、民族や地域で異なる文化や環境に左右されない普遍的な機能が脳に存在することが確認されつつあるんです。
もともと、「日本人は虫の音を左脳で聞く」説は脳科学者の角田忠信氏の「日本人の脳」に端を発しており、上に書いたように日本人の自尊心をくすぐるために、先日取り上げた「国家の品格」でも紹介されています。
人は自分に都合の良いことや、刺激的で面白い説しか覚えようとしません。
だから、この説も科学的に否定されても生き残っているんでしょう(ただし、脳科学は日進月歩ですから再び注目を集める可能性がないとは言えませんが)。
日本人であれば誰でも自分たちが特別の存在であることを証明する説を快く思うのは当然です。
しかし、私は、ナチスドイツが唱えたアーリア人の優秀性や、最初は黒人が人種として白人よりも劣っていることの証明として研究された知能指数のように、意味のない優越意識の根拠となることを危惧しています。
今まで何度も指摘したように、こうした考えかたは容易に他国民や他民族への差別意識に繋がるからです。
では。
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